診療

診療グループ

肝疾患グループ

当グループでは、急性肝障害から肝硬変、肝不全まであらゆるステージの肝疾患を診療しています。最新の情報をもとに、患者さん一人一人の病態や背景に合わせた医療を提供しています。診療や治験で得られた臨床データの集積・解析や、多施設での臨床研究や基礎的研究も行っており、医療の発展に貢献しています。

ウイルス性肝炎
医学の進歩とともに治療薬も変遷してきました。新薬の治験にはほとんど参加しており、C型肝炎への経口抗ウイルス治療、B型肝炎への核酸アナログ治療など数多く行っています。
脂肪肝、代謝性肝疾患
近年、生活習慣の欧米化や高齢化などに伴い、脂肪肝、代謝異常、サルコペニアなど新たな問題がクローズアップされています。運動療法や食事療法を多職種で研究し、新しい治療を開発・提供しています。
自己免疫性肝疾患
難治性疾患である自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎は原因、病態など未だ不明な点も多いですが、当院では多くの患者さんの治療を行っており、得られた新たな知見を診療に還元しています。
肝硬変
食道・胃静脈瘤、肝性脳症、胸腹水、肝癌など合併症もさまざまであり生活の質も低下します。最新の専門知識に基づく診断や治療に加え食事や生活習慣の細やかなケアも行っています。また、難治性腹水に対する腹腔静脈シャント術や末梢血幹細胞移植など最新治療も手がけています。
肝不全、肝移植後
高度救命救急センターと連携し急性肝不全の集学的治療を行っています。血液浄化療法、血漿交換などの肝補助療法を行いながら、移植外科と連携して移植適応の判断も行います。移植後の患者さんも多く、免疫調整剤などの内服管理や生活指導、合併症の確認など高度な医療を提供しています。

肝癌グループ

肝がんの疫学と治療

九州肝癌研究会における疫学研究において、2009年をピークに肝細胞癌は減少しつつあり、特にC型肝炎に起因する肝癌は順調に減少してきました。その一方で、B型・C型肝炎ウイルスによらない肝癌(非B非C型肝癌)が急増し、2021年の調査では、非B非C型肝癌の占める割合は60%を越えていること、肝がんの発生件数はわずかに増加に転じたこと、更に診断時の年齢は80歳以上が3割を超えていることが明らかになりました。こうした癌の発生には人口の高齢化、アルコールの過剰摂取や肥満による代謝関連肝疾患が深く関与していると考えられています。こうした患者さんは従来のB型・C型肝炎に起因する肝癌と比較し早期発見が難しく、診断時にはすでに進行癌であることも珍しくありません。これに対して、従来の肝切除術、経皮的ラジオ波焼灼術、肝動脈化学塞栓術、肝動注化学療法による肝臓内の病変に対する治療に加え、精密な放射線療法や、新規の分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤などの新しい全身治療薬が可能になりました。それぞれの治療の長所、短所を熟知し、患者毎に最適な治療を駆使した「集学的治療」の重要性が一層増してくると考えられます。

肝がんの画像診断

肝癌診療において、早期発見、早期治療はとても重要です。肝がんの画像診断法として、超音波検査(エコー)、CT,MRI検査がありますが、それぞれの長所短所を考慮し適切な画像診断、および経過観察を計画しています。マイクロバブルでできた造影剤(ソナゾイド)を用いた造影エコーやEOB-MRIの登場によりより精密な肝癌の診断が可能になっています。

肝がんの治療

ラジオ波焼灼療法(percutaneous radiofrequency ablation, PRFA)
当科では早期の肝がんに対してエコーガイド下に肝がんを穿刺して消失させる治療を長年にわたって行ってきました。1999年からラジオ波焼灼療法(percutaneous radiofrequency ablation, PRFA)という早期の肝がんを焼灼することで根治させる治療を導入しました。近年は造影エコー検査や、エコー検査にCTやMRIの画像を同期して表示するフュージョンシステムを用いることでより正確な穿刺が行えるようになっています。肝がんは根治的治療を行っても再発が多い治療の難しい癌ですが、当科の長年の経験で、肝がん治療後10年以上生存するには、癌を根治させることに加え、背景にある肝疾患が治療され肝機能が正常になっていることが必要であることを明らかにしています。C型肝炎が内服薬で根治できるようになり、肝がんの治療を行って10年以上生存している患者さんが日常的にみられるようになっています。
肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization, TACE)
肝癌を栄養する動脈までカテーテルを進め、癌に対して選択的に抗癌剤と塞栓物質を注入することで、高濃度の薬剤を直接注入するとともに動脈の血流を遮断し、腫瘍細胞を壊死させる肝がんに対する標準的な治療法であり、当科でも多くの経験を有しています。近年では抗癌剤溶出性のビーズを使ったDEB-TACE(drug-eluting bead, DEB)という新たな塞栓物質や、バルーン閉塞下肝動脈化学塞栓療法(balloon-occluded TACE: B-TACE)という新たなカテーテルを用いた治療もおこなっています。当院では従来型のTACEとそれらの利点、欠点を解析し医学論文を作成するとともに、癌の進行度や肝硬変の程度に応じて、従来型のTACEとの使い分けをおこなっています。。2022年からIVR-CTと呼称される血管造影検査とCT検査を組み合わせた治療支援システムが使用可能となり、正確な腫瘍の診断と治療が行いやすくなりました。
肝動注化学療法(Hepatic arterial infusion hemotherapy, HAIC)
肝動注化学療法は、肝がんが肝動脈から血流を受け取り増殖する性質を利用し、肝動脈にカテーテルを挿入し、癌細胞に直接、繰り返し抗癌剤を注入する治療法です。全身の薬物投与と比較し少ない抗癌剤で効率よく治療できることが利点です。当科では治療効果の高い「New FP」と呼称する治療法を開発しました。一般に、門脈や肝静脈など肝臓の重要な血管の中に入り込む肝癌は予後不良ですが、New FP療法はそのような肝癌に対しても良好な成績を認めています。New FP研究会を立ち上げ、全国の病院の先生方と協力して治療成績向上を目指しています。
分子標的治療薬
肝癌が上記のような治療で制御できない場合や、肺など他の臓器に転移している場合には分子標的治療薬が選択されます。過去10年で著しく進歩した治療法であり、現在は7種類の治療法が可能になり、特に免疫チェックポイント阻害剤の登場により治療成績の向上が認められています。当科および関連施設で2009年にKurume liver cancer study groupを結成し、それらの治療効果や副作用の詳細を多数の経験を基に検討しています。近年は、新薬の開発や、従来の分子標的治療薬とTACEや HAICを組み合わせる新たな治療法の開発などを、多施設共同で治験を行い治療成績の向上を目指しています。

消化管腫瘍グループ

当グループでは、主に消化管腫瘍性病変に対する診断・内視鏡治療を日々行っています。病変の内訳は、食道表在癌・胃腺腫・早期胃癌・大腸腺腫・早期大腸癌、など消化管腫瘍性病変が主体となっています。
診断は主に内視鏡観察・超音波内視鏡、必要に応じてX線透視などの画像検査を中心に行っています。近年、消化器内視鏡の光学系機器の著しい進歩により内視鏡画像の解像度や特殊光観察が格段に向上しています。当院では、通常白色光観察・色素法観察を基本に、拡大内視鏡観察・NBI(Narrow Band Imaging)等の画像強調観察を用いた性格な病変の存在診断・範囲診断・癌の深達度診断を精力的に行なって参りました。2020年以降、新たな内視鏡システム「EVIS X1」を導入し、従来の画像強調観察に加え本機器に搭載されている新たな画像強調機能を用いた、より精度の高い内視鏡診断を目指しています。また、大腸内視鏡検査時にはAI診断が可能なEndo BRAINを搭載した機器を用いており、病変の見逃しを少なくする努力を行なっています。また、内視鏡検査時に生検を行った症例は週に一度開催している「内視鏡所見会」において、内視鏡所見と生検病理所見の検討を行ない診断や治療方針の確認や情報共有を行なっています。

一方、消化管腫瘍に対する内視鏡治療はpolypectomy・EMR/ESDを中心に行なっています。年間の内視鏡治療件数は、胃ESD約120例、食道ESD約40-50例、大腸EMR約200例、大腸ESD約40-50例であり、年々増加傾向にあります。しばしば、全周性の食道表在癌や、瘢痕合併胃癌、残胃癌など治療難渋例のご紹介もありますが、治療効果が期待できる症例は積極的に内視鏡治療を行なうようにしています。内視鏡治療症例中、典型例や非典型例をピックアップし、治療前の画像所見と治療後の病理所見との対比を行い、当研究室で伝統的に開催されてきた「久留米消化器病研究会」(月に一度院内で開催)等において症例検討を行なっています。消化管内視鏡検査の内視鏡画像撮影技術及び形態診断能の共有と維持・向上に努めています。
当グループの若手医の教育方針として、一つ一つの症例経験の積み重ねや院内研究会でトレーニングを積み基本的な診断能力・内視鏡治療を身につけることを第一目標としています。その上で、上部消化管腫瘍もしくは大腸腫瘍を専門としたグループのいずれかを選択し、更なる診断・治療・研究を追求したスペシャリストを目指します。

診療分野

  • 上部消化管腫瘍の診断、内視鏡治療
  • 大腸腫瘍の診断、内視鏡治療
診療残胃
診療食道
診療大腸

炎症性腸疾患グループ

炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease: IBD)グループでは炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎 約400名、クローン病 約200名の診療を主に行っています。久留米大学では九州初となるIBDセンターを有しており、筑後地域にとどまらず、大分、佐賀、熊本など近隣県からも含め、年間約80名のIBD患者さんをご紹介いただいています。治療指針に基づいて、抗TNFα抗体、抗IL-12/23抗体、接着因子阻害薬、JAK阻害薬、免疫調節薬、血球成分除去療法などを用いた最新治療を行っており、また国際共同治験を含む数多くの新薬の臨床試験にも参加しています。
IBD専門医による質の高い治療を行うだけでなく、私たちが行ってきたIBDの治療成績や臨床研究を多くの国内・国際学会や国際論文に発表しています。さらに若手の医師に発表や論文作成の機会を多く設け、次世代のIBD専門医の教育に取り組んでいます。
日常臨床においては、IBDだけでなく、消化器内科全般についての幅広い知識・技術を有するような医師の育成を目指しています。上・下部消化管内視鏡検査や消化管X線検査、カプセル内視鏡、小腸内視鏡などの数多くの検査技術の習得、画像診断の精度の向上に取り組んでいます。

診療体制

IBDグループの医師5名が消化器病全般の診療の中で幅広い知識や技術の習得に努めながら、IBD患者さんの外来診察や内視鏡検査、病棟業務を行っています。
栄養士、看護師、薬剤師、臨床心理士などメディカルスタッフを交えたチーム医療を実践しています。
月に1回小児科、外科、免疫学講座との合同カンファランスや医師、看護師、薬剤師、栄養士など他職種参加のIBDサポートセミナーを定期的に開催し、チーム医療の向上に向け活動を行なっています。

門脈圧亢進症グループ

当グループでは、主に肝硬変症に起因する門脈圧亢進症・食道・胃静脈瘤に対する診療を行なっています。食道・胃静脈瘤は一旦出血すると致死的な転帰をたどることも少なくないため、本邦では予防的治療を行うことが一般的となっています。予防的治療前には、multidetector CT(MDCT)-coronal像やMRAを用いた詳細な血行動態評価を行い、安全かつ確実な治療を行うように心がけています。治療は、主に内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)、内視鏡的硬化療法(EIS)、シアノアクリレート系組織接着剤注入法などの内視鏡的治療に加えIVR治療も行っています。したがって、静脈瘤に対する総合的な治療選択を立案することが可能です。一般的に内視鏡治療に難渋する胃孤立性静脈瘤例や、患者のQOLを大きく損ねる肝性脳症(シャント脳症)併発例に対しては、積極的にバルーン下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)を行なってきました。当科のB-RTO件数は延べ200例を超え本邦では有数の症例数を誇ると同時に、良好な治療成績を報告しています。また、一般市中病院では治療困難な出血リスクの高い異所性静脈瘤(十二指腸静脈瘤・直腸静脈瘤など)に対しても積極的に治療を行っており、県内外から多くの紹介をいただいています。本疾患は、緊急性・高リスクを伴うことが多く当院の高度救命救急センターと連携の上、緊急搬送にも対応しています。

診療分野

  • 食道・胃静脈瘤の診断・治療(内視鏡診断・治療)
  • バルーン下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)
  • 異所性静脈瘤の診断・治療
  • 門脈圧亢進症の診断・治療(特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、Budd-Chiari症候群などを含む)
  • 肝性脳症(シャント脳症)
  • 門脈血栓症など
胃静脈瘤 治療前
胃静脈瘤 治療後

胆膵グループ

当グループでは、胆道(胆管・胆嚢・十二指腸乳頭部)、膵臓の良性疾患や悪性疾患の診断と治療をおこなっています。胆道や膵臓領域の診断には、腹部エコー、CT、MRIといった画像診断に加え、超音波内視鏡(EUS)や内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)、さらにこれらEUSやERCP下に行われる病理診断といった専門性の高い内視鏡診断が重要な位置を占めています。特に近年増加する膵臓癌の早期発見にはEUSが威力を発揮します。治療では、良性疾患には内視鏡的治療を主軸とした低侵襲治療、進行癌治療では内視鏡的ステント治療に加え当科の腫瘍内科医が常駐する「がん集学治療センター」あるいは地域の化学療法室を有する施設と連携し、非切除例に対する全身化学療法、外科治療前後の全身化学療法や放射線化学療法、をおこなっています。当院では、消化器内科・肝胆膵外科・放射線科・病理診断科と週1回の合同カンファランスを行い、各科の垣根を超えた連携による正確な診断と患者個々に沿った最適な治療法を検討しています。また月1回の術後症例や難渋症例の画像から病理を検討するカンファランスを開催し、診療の精度維持および向上に努めています。
無論、患者さんやご家族の十分な理解と合意を最も尊重した医療の提供に心がけています。

当科で行っている胆膵内視鏡関連手技

EUS関連(年間300-400例)
EUS観察、EUSガイド下穿刺術(EUS-FNA)、胆管膵管内超音波(IDUS)、EUSガイド下ドレナージ術(膵仮性嚢胞、Walled-off necrosis、胆道系、など)
ERCP関連(年間400-500例)
内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)、内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD/EPLBD)、内視鏡的胆管ステント留置術・膵管ステント留置術、内視鏡的胆管結石除去術(砕石術・電気水圧衝撃波胆管結石破砕)、内視鏡的乳頭切除術、経口胆道鏡・膵管鏡

当院で実施可能な癌薬物治療

全身化学療法
胆道癌: ゲムシタビン塩酸塩+シスプラチン併用療法, ゲムシタビン塩酸塩+S1併用療法, ゲムシタビン塩酸塩+シスプラチン+S1併用療法, ペマジール(FGFR遺伝子変異例), ベンブロリズマブ(MSI-High例), など
膵臓癌
ゲムシタビン塩酸塩, S1単独療法, ゲムシタビン塩酸塩+S1併用療法, FOLFILINOX療法, ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法, ゲムシタビン塩酸塩+エルロチニブ塩酸塩併用療法, ベンブロリズマブ(MSI-High例), オラパリブ(BRAC遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵癌における白金系悪性腫瘍剤を含む化学療法後の維持療法として), エヌトレクチニブ(NTRK融合遺伝子陽性例), など
1.超音波内視鏡(診断)
2.超音波内視鏡(治療)
3.内視鏡的胆道膵管造影法(診断)
4.内視鏡的胆道膵管造影法(治療)
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