研究紹介

肝臓グループ

肝炎・代謝班

肝炎・代謝グループは、慢性肝炎、急性肝炎、劇症肝炎、肝不全、自己免疫性肝疾患、肝再生、アルコール性肝障害などを中心に診療および臨床的・基礎的研究まで行っています。
臨床では、C型慢性肝疾患へのインターフェロン治療は約2000例、C型肝炎の内服経口剤は約200例、B型慢性肝疾患への核酸アナログ療法は約300例、自己免疫性肝炎約200例、急性肝不全約100例の経験があります。外来では、当グループの肝臓専門医が毎日診察を行っており、4000例を超える症例のデータベースを構築しています。また肝移植外来もあり、術前の適応評価から移植後のフォローまで行っています。入院患者さんへは、週に1回臨床のカンファランスを行いながら、治療方針などを検討しています。臨床データの集積・解析を行い、この解析により”明日からの臨床に直結する重要なもの”を探り出そうとしています。
肝炎領域の新薬の治験も多数行っており、日本で行われるほぼすべての治験が当科では導入されていることは特筆すべきで、最先端の医療を経験することが可能です。また,我々は積極的に基礎的な研究も行っており、C型肝炎では次世代シークエンサーを用いたウイルスの遺伝子の研究、肝障害時の肝再生の研究、アルコール性肝障害の研究も行っています。臨床・基礎研究で得られたデータは国内外の学会で発表し、さらに英文誌でも公表しています。また米国への留学経験者も2名在籍しています。
このように我々のグループは日常診療に深くかかわり、得られた結果を分析し、そこでの疑問点や新たな治療方策を検討し、また、そのために必要な基礎的研究を行っていることが特徴です。肝障害はデータの分析が多いため、昨今の派手な画像診断に比べるとわかりにくいというご意見がありますが、データが頭の中で構築されると視界が広がり新たなことへと興味がわいてくるのがこの分野の醍醐味です。それらの疑問点の解決には臨床解析のみならず基礎的研究が必要でそれを経験することも必要です。また海外へも目の向けることが出来る広い視野を持つことも重要です。そのような人材を育成したいと考えています。

診療分野

・ウイルス性肝炎
・自己免疫性肝疾患
・肝移植
・肝硬変、肝不全
・薬剤性肝障害
・アルコール性肝障害

研究内容

・ウイルス性肝炎の臨床研究
・ウイルス性肝炎の基礎研究
・自己免疫性肝疾患の臨床研究
・アルコール性肝炎の基礎研究
・肝幹細胞に関する基礎研究

スタッフ

井出 達也 有永 照子 桑原 礼一郎 天野 恵介 川口 俊弘 佐野 有哉

先端的癌・再生研究班

【研究対象】
1)がん
主として肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、膵・消化管神経内分泌腫瘍を研究対象としています。いずれも腫瘍も難治ですが、その理由を「癌幹細胞仮説」に求める考え方があります。正常の幹細胞と同様に自己複製能や多分化能を持った癌幹細胞は、その特異な微小環境において極めて強い低酸素耐性、飢餓耐性、抗癌剤耐性などを持つに至ります。日常臨床で遭遇する癌の再発や転移には、これらのメカニズムが関与していると考えられています。
私たちの目標は、「癌幹細胞を含む難治癌の生存メカニズムの解明と、その成果の治療への還元」です。そのために、臨床研究によるヒト情報の解析、免疫不全マウスなどを使った動物実験、肝癌細胞株(病理学講座との共同研究)・膵癌細胞株・膵神経内分泌腫瘍細胞株などを使用した実験を通して、最新の成果を国内の多くの学会や海外の主要学会(米国癌学会、米国肝臓学会、米国消化器病週間、欧州消化器病週間など)で発表し、英文雑誌に発表しています。

2)肝再生
直接型抗ウイルス薬の登場によって、感染症としてのC型肝炎は95%以上の確率で治癒が期待される時代になりました。それによって肝臓の線維化も徐々に改善することがわかってきましたが、重度の肝硬変にまで進んでしまった肝臓を元通りにすることは現時点では困難です。
この問題に対し、私たちは「血管内皮前駆細胞」を使った肝再生療法を実臨床で展開しようとしています。これは私たちの長きにわたる基礎研究(in vitroや動物実験)の成果と言えます。さらに、肝線維化に関わるTGF-βシグナル伝達系の抑制剤や自己組織化ペプチドを使って、「血管内皮前駆細胞」のポテンシャルを上げる試みもおこなっています。
上記の研究は「C型肝炎ウイルスに起因する肝硬変患者に対するG-CSF動員自家末梢血CD34陽性細胞の経肝動脈投与に関する臨床研究(研究代表者:鳥村拓司)」として国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の平成28年度「再生医療実用化研究事業」に採択されました。

研究内容

・癌幹細胞の生存戦略の解明と新規治療法開発への応用
・肝癌におけるWntおよびNotchシグナル
・腫瘍特異的抗血管新生療法の確立
・消化器神経内分泌腫瘍における癌幹細胞マーカー分子の生物学的意義
・肝動注化学療法に耐性を有する肝癌細胞の抗酸化ストレス能
・肝癌患者の非癌部肝組織DNAメチル化と肝癌の多中心性発生との関係
・肝癌におけるPD-L1の免疫外機能
・膵癌癌性腹水由来exosomeに内在するCD133糖鎖の臨床的意義
・血管内皮前駆細胞を用いた肝再生療法の実臨床への展開

スタッフ

古賀 浩徳 中村 徹 吉田 隆文 安倍 満彦 和田 史孝 岩本 英希 増田 篤高 阪上 尊彦 田中 俊光

肝癌班

【C型肝炎が治る時代の肝癌】
C型肝炎に起因する肝癌は減少しつつある一方で、B型・C型肝炎ウイルスによらない肝癌(非B非C型肝癌)が急増しています。九州肝癌研究会の2015年の統計によると、非B非C型肝癌の占める割合は40%を越えています。こうした癌の発生にはアルコールの過剰摂取や肥満、糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎などが深く関与していると考えられています。従来、こうした患者さんは肝発癌のハイリスクグループとして認識されていなかったため、診断時にはすでに大きな進行肝癌であることも珍しくありません。これに対して、従来の局所治療に加え、新規の分子標的治療薬や精密な放射線治療、近未来に承認されるであろう免疫チェックポイント阻害剤などの新しい全身治療薬を加えた「集学的治療」の重要性が一層増してくると考えられます。


治療

1)造影エコーやEOB-MRIなどの画像診断を駆使した肝癌の精緻な質的診断
2)ラジオ波焼灼療法(percutaneous radiofrequency ablation, PRFA):早期の肝癌に対する根治的な治療法です。やや大きな腫瘍に対しては後述のTACEを併用し根治性を上げるよう努めています。
3)肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization, TACE):肝癌を栄養する動脈までカテーテルを進め、そこで抗癌剤などを入れ、動脈の血流を遮断し、腫瘍細胞を壊死させる方法です。最近では抗癌剤溶出性のビーズを使ったDEB-TACE(drug-eluting bead, DEB)という治療法も積極的におこなっています。またバルーン閉塞下肝動脈化学塞栓療法(balloon-occluded TACE: B-TACE)もおこなっています。肝癌性状や肝硬変の進行程度に応じて、従来型のTACEとの使い分けをおこなっています。
4)肝動注化学療法(HAIC):本邦ではさまざまな様式のHAICがおこなわれていますが、基本的にはどれもTACEのように動脈血流を遮断せず、カテーテルの先端から持続的に抗癌剤を腫瘍に流し込む治療法です。当科では治療効果の高い「New FP」と呼称している治療法を開発しました。シスプラチン製剤を油性造影剤と混ぜ、腫瘍めがけて注入し、その後約5日間の5-FU持続注入をおこないます。これを数回繰り返す治療法です。一般に、血管の中にまで入り込む(とくに門脈にまで浸潤する)ような肝癌は予後不良ですが、そのような難治性肝癌に対する治療成績は、後述するsorafenib治療よりNew FPの方がはるかに良好なことがわかりました(図)。したがって、進行肝癌の患者さんで肝予備能が十分保たれている場合、New FPによって予後の延長が期待されると考えられます。このように非常に有用な治療法ではありますが、まだ広く普及しているわけではありません。これまで全国の病院や大学、あるいは韓国から多くの若手医師がNew FPなどの技術を習得するために当科を訪れました。今年(2017年)も韓国からの留学生が訪れる予定です。
5)分子標的治療薬:肝臓の癌が上記のような内科的治療で制御できない場合や、肺など他の臓器に転移している場合にはsorafenib治療が選択されます。手足症候群や高血圧など副作用も多く、効果は必ずしも十分ではありませんが、病気の進行を止める働きがあります。2017年6月末、類薬であるregorafenibが主にsorafenib不応になった患者さん*を主体に使用が承認され、治療の選択肢が増えました(*:「がん化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞癌」)。さらに新薬lenvatinibも同様の肝癌に対する適応承認を待っています。

学会・研究活動

学会と研究会など
日本肝臓学会(総会・西部会)、日本消化器病学会、日本肝癌研究会、日本肝がん分子標的治療研究会、リザーバー研究会、米国肝臓学会(AASLD)、米国癌学会(AACR)
研究活動
・肝癌の肉眼型と再発・予後に関する研究
・肝癌の病理学的脈管侵襲に関連するエピゲノム診断
・MRI拡散強調画像を用いた肝癌の質的診断
・肝癌のネクサバールとTS-1を用いたメトロノミック治療 (Phase II)
・進行肝癌における分子標的治療薬の治療成績に関する多施設共同研究(Kurume Liver Cancer Study Group)
・進行肝癌におけるNew FP療法とソラフェニブの治療効果に対する前向き比較試験
・肝癌におけるDEB-TACEとエピルビシン含有ヘパスフィアによるTACEの治療効果に対する前向き比較試験
・血管新生阻害剤の中止による肝類洞のrevascularizationは癌転移を促進する
・非癌部肝組織のDNAメチル化の変化は肝細胞癌の多中心性発生のバイオマーカーになり得る
・切除標本における抗癌剤耐性肝癌細胞の形質解析:癌幹細胞の観点から

スタッフ

黒松 亮子 佐谷 学 新関 敬 中野 聖士 相野 一 岡村 修祐 岩本 英希 下瀬 茂男 城野 智毅 野田 悠

栄養治療班

消化器は、生命の営みに不可欠な栄養分の消化・吸収、代謝を行う臓器です。消化器疾患の患者さんの多くは、これらの機能が障害され、栄養状態が低下します。栄養状態は、がんや感染症に対する治療効果だけでなく、患者さんのQOLに関わる重要なものであるため、栄養療法は多くの消化器疾患患者さんに必須な治療法です。そのため、栄養治療グループでは、「消化器疾患の栄養治療の実践」と「新たな栄養療法の開発」を目的に活動しています。
栄養治療グループの特徴は、医師だけでなく、看護師や管理栄養士とともに職種の垣根を越えて、栄養治療を実践していることです。また、週一回の消化器内科病棟でのカンファランスだけでなく、大学内の栄養サポートチームとともに全病棟を回診するため幅広い知識を得ることが出来ます。さらに、本学は日本静脈経腸栄養学会認定栄養サポートチーム専門療法士の教育施設であり、我々も消化器領域を担当し、これまでに全国390名以上の方の認定に携わってきました。
消化器疾患患者を対象とし、栄養治療を専門に行うチームは全国でも数少なく、未だ消化器疾患の栄養・代謝領域には多くの未解明な点が残されています。我々はこれまでに「肝がんと糖尿病の関連」「肝硬変患者の栄養療法」「脂肪肝患者の運動療法」といったテーマを中心に臨床研究や基礎研究を行なってきました。また、国内外の研究機関とも共同研究を行い「非アルコール性脂肪性肝炎の実態調査」、「分岐鎖アミノ酸による肝硬変患者予後の改善」について取り組んでいます。得られた研究成果を国内外の学会で発表するだけでなく、英文論文として公表し、国際的な情報発信も行っています。
私たち、栄養治療グループは、飽食や高齢化により需要の高まる栄養療法をチーム医療で実践できる医師・メディカルスタッフを育成するとともに、新たな治療法の開発を目指して活動しています。


診療分野

・肝硬変に伴う栄養障害・代謝異常への栄養管理
・肝発がん・がん再発に対する栄養療法
・脂肪肝・非アルコール性脂肪性肝炎に対する栄養・運動療法
・消化器疾患・消化器がん治療時の栄養管理

研究内容

・インスリン抵抗性・糖尿病治療薬と肝がんの関連
・分岐鎖アミノ酸(BCAA)が肝疾患患者におよぼす影響
・非B非C肝がんの食習慣と遺伝子変異の関連
・脂肪肝に対する新規運動療法の開発とマイオカインとの関連
・膵がん早期発見と病態解明を目指したアミノ酸解析

スタッフ

川口 巧 中野 暖